整備工場がEV・ハイブリッド車の整備に対応するには|必要な教育・保護具・設備と引き受ける範囲

ハイブリッド車の入庫は、独立したばかりの小さな整備工場にも普通に来ます。断り続ければ車検や点検の顧客ごと離れていきますし、準備をしないまま受ければ、感電の危険と法令違反を同時に抱えることになります。この記事では、整備工場がEV(電気自動車)やハイブリッド車の整備に対応するために、経営者として決めることを順に整理します。保有台数の推移、一般の整備工場で行う範囲とメーカー側の領分、従業員の特別教育、絶縁用保護具と検電器、作業場の区画と表示、スキャンツールと整備要領書、見積で確かめる費用の項目、引き受ける仕事と断る仕事の線引きです。作業手順の細部は扱わず、どこまでを自社の仕事にするかを判断する材料をまとめました。
この記事で確認した一次情報
- 厚生労働省「電気自動車等の整備業務に必要な特別教育のあり方に関する検討会報告書」(2019年4月26日公表)一般の整備工場で行う作業と行わない作業の現状認識
- 労働安全衛生規則 第36条、第339条、第346条、第348条、第351条、第352条(e-Gov法令検索)特別教育、停電作業、絶縁用保護具
- 国土交通省「次世代自動車の普及状況(保有台数)」ハイブリッド自動車、電気自動車などの保有台数
電気自動車・ハイブリッド車の保有台数と整備需要
電気自動車やハイブリッド車の整備需要は、保有台数の増加とともに整備工場の規模を問わず広がっています。国土交通省の「次世代自動車の普及状況(保有台数)」によると、ハイブリッド自動車の保有台数は令和2年度の11,800,101台から令和6年度には17,159,242台に増えました。同じ期間に電気自動車は146,041台から358,585台、プラグインハイブリッド自動車は151,427台から287,804台、燃料電池自動車は5,279台から8,673台です(出典は自動車検査登録情報協会と軽自動車検査協会)。台数の大半はハイブリッド車で、電気自動車はまだ少数という構成です。独立した整備工場にとって目の前の課題は、電気自動車の専門工場になるかどうかより、すでに地域を走っている1,700万台規模のハイブリッド車の車検や点検を、安全と法令を守って受けられる体制を持つかどうかにあります。
| 種類 | 令和2年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|
| ハイブリッド自動車 | 11,800,101台 | 17,159,242台 |
| 電気自動車 | 146,041台 | 358,585台 |
| プラグインハイブリッド自動車 | 151,427台 | 287,804台 |
| 燃料電池自動車 | 5,279台 | 8,673台 |
国土交通省の資料の注記では、燃料電池自動車とプラグインハイブリッド自動車は乗用車の台数です。数字は地域で偏るので、自分の商圏で入庫を断った件数を数えておくと、対応するかどうかの判断材料になります。
一般の整備工場で行うEV・HV整備の範囲とメーカー側の領分
一般の整備工場が行うEV・HV整備は、駆動用電池の回路を停電させた状態での点検と一般整備が中心で、駆動用電池そのものの分解修理はメーカー側の領分です。2019年の厚生労働省の検討会報告書は現状として、メーカーの整備要領書によりサービスプラグを取り外し、対地電圧が限りなくゼロボルトに下がった状態で作業することとされ、通電しながらの保守点検は行われないと整理しています。駆動用蓄電池について報告書は、不具合があっても一般の整備工場では部品交換等の修理は行われず、部品交換やアッセンブリ交換を行うのはバッテリメーカーの工場やメーカーから特別に指定を受けた整備工場のみで、従事者はメーカーから専門的な教育を受けていると記しています。サービスプラグを取り外せない場合など感電のおそれがあるときは、整備要領書によりレスキューに依頼することとされ、一般的に整備工場では整備しないとも書かれています。
| 作業の区分 | 誰が行うか(2019年の報告書の現状認識) |
|---|---|
| 停電させた状態での点検、一般整備 | 一般の整備工場(特別教育を受けた従業員) |
| 駆動用蓄電池の部品交換等の修理、アッセンブリ交換 | バッテリメーカーの工場、メーカーから特別に指定を受けた整備工場 |
| サービスプラグを取り外せないなど感電のおそれがある車 | 整備要領書によりレスキューに依頼し、一般的に整備工場では整備しない |
水没した車について報告書は、駆動用蓄電池は車体から絶縁されており、12ボルトバッテリーの電源が絶たれるとシステムメインリレーがOFFになって電気回路が成立しないため、予期せぬ箇所が帯電する状況は想定されないと整理しています。それでも事故車や水没車は、整備要領書の扱いを確かめてから受けるかどうかを決めます。
この区分は2019年時点の報告書の記述です。車種ごとの扱いは年式やメーカーで変わるため、入庫前にメーカーの整備要領書で、自社で行える範囲かどうかを確かめます。
EV・HV整備に必要な人の教育(特別教育)
EVやハイブリッド車の整備に従業員を就かせるには、事業者が電気自動車等の整備の業務に係る特別教育を行う必要があります(労働安全衛生規則第36条第4号の2)。対象は対地電圧が50ボルトを超える蓄電池を内蔵する自動車の整備で、学科6時間以上と実技1時間以上を、業務に就かせる前に行います。整備士資格を持つ従業員は、学科のうち「電気に関する基礎知識」(1時間)を省略できる場合がありますが、残りの科目と実技は受けます。受講者と科目の記録は3年間保存します(第38条)。2024年10月1日の改正で高圧の蓄電池を積んだ車も対象に入り、それ以前の受講者に高圧の蓄電池の車を扱わせるなら追加の教育が必要です。対応を決めたら、まず誰を受講させるかと、社内で行うか外部講習を使うかを決めます。教育が済むまでは、その従業員を駆動用電池の回路に触れる作業に就かせません。
対象者、科目と時間、経過措置の詳細は電気自動車・ハイブリッド車の整備に必要な特別教育で整理しています。
絶縁用保護具、絶縁工具、検電器の準備
EV・HV整備の準備で設備投資の中心になるのは、絶縁手袋や絶縁靴などの絶縁用保護具、絶縁工具、検電器です。2024年の厚生労働省の通達(基発0612第22号)は特別教育の範囲として、絶縁用保護具に絶縁手袋と絶縁用靴が含まれ、電路を停電させる操作等に見合う耐電圧性能のものを選ぶ必要があること、絶縁用防具に絶縁シートが含まれること、検電器にサーキットテスターと絶縁抵抗計が、その他の安全作業用具に保護眼鏡が含まれることを示しています。労働安全衛生規則第348条は、絶縁用保護具を使用の目的に適応する種別、材質、寸法のもので使い、直流750ボルト以下の電路に使うものは電圧に応じた絶縁効力のものを使うよう定めています。買って終わりではなく、その日の使用前の点検(第352条)と、定期の絶縁性能の検査と記録(第351条)が続きます。
| 用具 | 選ぶときに確かめること | 買った後の管理 |
|---|---|---|
| 絶縁手袋、絶縁用靴 | 扱う車の電圧に見合う耐電圧性能か、作業者の手と足の寸法に合うか | 使用前点検、定期の絶縁性能の検査と記録 |
| 保護眼鏡 | 作業者全員の分があるか | 傷や破損の確認 |
| 絶縁工具、絶縁テープ | 整備要領書が求める工具がそろうか | 絶縁被覆の傷や破れの確認 |
| 絶縁シート(絶縁用防具) | 作業する部位を覆える大きさか | 使用前点検 |
| サーキットテスター、絶縁抵抗計 | 測定範囲が扱う電圧に合うか | 機器の取扱説明書に従った点検、校正 |
保護具の点検と記録の具体的な進め方は絶縁用保護具の定期自主検査で扱っています。認証に必要な工具や機器の全体は認証工場の設備と工具で確認できます。
作業場の区画と表示(停電させた車の管理)
EV・HV整備の作業場では、停電させた車に誰かが通電してしまう事態を防ぐ管理が必要になります。報告書は、サービスプラグを外すときは整備要領書により必ずPOWERスイッチをOFFにするものの、OFFにし忘れた場合や誤ってONにした場合に活線状態となるおそれがあるとして、絶縁用保護具を使う理由を説明しています。労働安全衛生規則第339条は電路を開路して行う電気工事の作業について、開閉器に施錠するか、通電禁止に関する所要事項を表示するか、監視人を置くことと、残留電荷による危険があれば確実に放電させることを定めています。車の整備にこの条文がそのまま当てはまるかは条文から断定できませんが、特別教育の範囲にも「停電電路に対する措置」(残留電荷の確実な放電を含む)と「作業管理」が入っています。作業中の車には表示を出し、外したサービスプラグの置き場と管理者を決めておくことが、同じ考え方の運用です。
- EV・HVの作業をする場所を決め、作業中は関係者以外が近づかないようにする。
- 作業中の車に「通電禁止」などの表示を出す。
- 外したサービスプラグなどの部品は、作業者が管理し、置き場を決める。
- 作業を引き継ぐときに、停電の状態をどう伝えるかを決めておく。
停電の操作や確認の具体的な手順は、姉妹サイトのサービスプラグと高電圧作業の安全手順にまとめています。
スキャンツールと整備要領書の準備
EVやハイブリッド車の点検では、診断にスキャンツールを使い、作業の手順と待機時間などはメーカーの整備要領書に従うのが前提になります。報告書は、サービスプラグの取り外し、感電のおそれがある場合のレスキューへの依頼など、作業の判断の多くを「メーカーの整備要領書により」と書いています。2024年の通達も、車体の構造に応じてサービスプラグの取外し以外の方法で停電させる車種があるとしており、車種ごとの手順を整備要領書で確かめなければ作業に入れません。設備の判断では、使うスキャンツールが入庫の多いメーカーと年式のハイブリッド車に対応しているか、メーカーの整備情報をどの方法で入手するかを先に確かめます。整備士個人の経験や記憶に頼るより、整備要領書を見て作業する仕組みにしておく方が、人が入れ替わっても安全の水準を保てます。
スキャンツールの選び方と特定整備との関係は整備工場のスキャンツールで扱っています。高電圧システムの構成と点検項目は高電圧システムの仕組みと点検が参考になります。
EV・HV対応の費用項目と見積の確かめ方
EV・HV対応の費用は、受講させる人数、扱う車の電圧、そろえる保護具の数、スキャンツールの対応範囲で大きく変わるため、相場の数字で予算を決めず、項目ごとに見積を取って確かめます。費用の項目は大きく、人の教育、保護具と工具、測定器、診断機と整備情報、保護具の定期検査の5つに分かれます。教育は外部講習の受講料のほか、受講中に作業から外れる時間も費用です。保護具は作業者の人数分と予備、サイズ違いが要るかどうかで数が変わり、定期の絶縁性能の検査を外部に頼むなら、その費用も毎年かかります。スキャンツールは本体だけでなく、対応車種の更新やソフトの利用料の扱いを見積の段階で確かめます。初期投資を補助金で賄えるかは制度と公募回ごとに条件が違うため、公募要領で確認します。
| 費用の項目 | 見積で確かめること |
|---|---|
| 特別教育 | 受講料、受講者の人数、整備士資格による省略の扱い、受講日数 |
| 絶縁用保護具、保護眼鏡、絶縁シート | 扱う電圧に合う種別、作業者の人数分と予備の数、交換の目安 |
| 絶縁工具、絶縁テープ | 整備要領書が求める工具の種類と数 |
| サーキットテスター、絶縁抵抗計 | 測定範囲、校正の費用と周期 |
| スキャンツール、整備情報 | 対応メーカーと年式、更新費用、整備要領書の入手方法 |
| 保護具の定期検査 | 外部に頼む場合の検査費用、検査に出している間の代わりの保護具 |
開業時の資金計画と使える補助金の考え方は整備工場の開業資金と補助金で整理しています。
引き受けるEV・HV整備と断る整備の線引き
EV・HV対応の線引きは、駆動用電池の回路に触れない作業、停電させて行う作業、メーカー側に任せる作業の3段階で考えると決めやすくなります。オイル交換やタイヤ、ブレーキまわりの一般整備、法定点検や車検の点検でも、作業の中に駆動用電池の回路に触れたり近づいたりする工程がなければ、特別教育の対象外の業務として行えます。ただし車種によっては高電圧の配線が作業部位の近くを通るため、教育を受けていない従業員に任せてよいかは作業ごとに判断が要ります。停電させて行う作業は、特別教育と保護具、整備要領書がそろってから引き受けます。駆動用電池の分解修理や、サービスプラグを外せないなど感電のおそれがある車は、2019年の報告書の整理どおりメーカー側や販売店、レスキューにつなぎます。断る仕事を先に決めておくと、受付で迷わず、顧客にも理由を説明できます。
| 段階 | 例 | 自社で引き受ける条件 |
|---|---|---|
| 回路に触れない作業 | 油脂類、タイヤ、ブレーキまわりの一般整備、点検(作業部位に高電圧の配線がないもの) | 作業内容と整備要領書の注意を確かめる |
| 停電させて行う作業 | 駆動用電池の回路に触れる、近づく作業 | 特別教育、保護具、整備要領書、作業場の管理がそろっている |
| メーカー側に任せる作業 | 駆動用蓄電池の分解修理、感電のおそれがある事故車 | 自社では行わず、販売店やメーカー、レスキューにつなぐ |
- 商圏で入庫するハイブリッド車と電気自動車のメーカーと年式を把握した。
- 引き受ける作業と断る作業を3段階で決め、受付の担当者と共有した。
- 駆動用電池の回路に触れる作業をする従業員の特別教育を終え、記録を残した。
- 扱う電圧に見合う絶縁用保護具と保護眼鏡、絶縁シートを人数分そろえた。
- 保護具の使用前点検と定期の絶縁性能の検査の担当者と記録の様式を決めた。
- スキャンツールの対応車種と整備要領書の入手方法を確かめた。
- 作業中の表示と、外したサービスプラグの管理方法を決めた。
まとめ
ハイブリッド車の保有台数は令和6年度に17,159,242台に達し、独立した整備工場でも入庫を前提に考える時期に来ています。一般の整備工場が担うのは停電させた状態での点検と一般整備で、駆動用蓄電池の分解修理やアッセンブリ交換は、2019年の報告書の整理ではバッテリメーカーの工場やメーカーから指定を受けた整備工場の仕事です。対応するには、従業員の特別教育、扱う電圧に見合う絶縁用保護具と検電器、作業場の表示と部品の管理、スキャンツールと整備要領書をそろえます。費用は人数と車種で変わるので、項目ごとに見積を取ります。回路に触れない作業、停電させて行う作業、メーカー側に任せる作業の線引きを先に決めておけば、受付で迷わず、安全と法令を守った範囲で仕事を広げられます。
整備工場のEV・ハイブリッド車整備に関するよくある質問
- 認証工場ならEVやハイブリッド車の整備をしてよいですか?
- 自動車特定整備事業の認証とは別に、従業員を駆動用電池の回路に触れる作業に就かせるには、事業者が電気自動車等の整備の業務に係る特別教育を行う必要があります(労働安全衛生規則第36条第4号の2)。あわせて絶縁用保護具の準備と点検、メーカーの整備要領書に従った作業が前提になります。
- ハイブリッド車の駆動用電池の交換や修理は町の整備工場でできますか?
- 2019年の厚生労働省の検討会報告書は、一般の整備工場では駆動用蓄電池の部品交換等の修理は行われず、部品交換やアッセンブリ交換はバッテリメーカーの工場やメーカーから特別に指定を受けた整備工場のみが行うと現状を整理しています。車種ごとの扱いはメーカーの整備要領書で確認します。
- ハイブリッド車のオイル交換や車検にも特別教育は必要ですか?
- 厚生労働省のQ&Aは、充電電路にさわらない、近づかない、感電のおそれのない業務だけを行う労働者は特別教育の対象外としています。作業の中に駆動用電池の回路に触れる、近づく工程があるかは車種と作業で変わるため、整備要領書で確かめ、判断に迷う作業は教育を受けた従業員が担当します。
- EV・HV対応の設備にはどのくらい費用がかかりますか?
- 受講させる人数、扱う車の電圧、保護具の数、スキャンツールの対応範囲で変わるため、一律の額はありません。特別教育、保護具と絶縁工具、測定器、スキャンツールと整備情報、保護具の定期検査の5つの項目ごとに見積を取り、更新や検査のように毎年かかる費用も含めて確かめます。
- EV・HVの入庫が増えたとき、受付や整備記録の管理はどうすればよいですか?
- 点検や車検の受付、見積、請求、整備記録をまとめて扱うのが自動車整備システム(自動車整備ソフト)です。中古車も販売するなら車両販売システム(車販ソフト)とデータがつながるかを確認します。整備システム 比較や整備ソフト おすすめの情報を見るときは、整備ソフト 安いかどうかだけでなく、整備システム リースなしで始められるか、工場の規模に合うかも確かめてください。
出典
この記事は次の一次情報をもとに作成しています(2026年10月17日確認)。
- 国土交通省「次世代自動車の普及状況(保有台数)」(出典:自動車検査登録情報協会、軽自動車検査協会):https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/002005060.pdf
- 厚生労働省「電気自動車等の整備業務に必要な特別教育のあり方に関する検討会報告書」(2019年4月26日公表):https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000489412.pdf
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 基発0612第22号「電気自動車の整備の業務等に係る特別教育に係る労働安全衛生規則等の改正について」(令和6年6月12日、北海道労働局掲載):https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/001852091.pdf
- 厚生労働省リーフレット「電気自動車、ハイブリッド自動車等の整備業務に係る感電災害防止のための特別教育が変わります」(2019年9月):https://www.mhlw.go.jp/content/001101327.pdf