整備工場の新規事業の選び方|車検の受託拡大・特定整備・出張整備など周辺事業と必要な許認可

整備工場が始めやすい新規事業は、いまの設備と整備士、顧客をそのまま使える周辺の事業です。車検の受託を広げる指定工場の取得、エーミングなどの特定整備、EVやハイブリッド車の整備、令和7年6月30日に始まった出張での特定整備(訪問特定整備)、中古車の販売、鈑金塗装、代車やレンタカー、損害保険の代理店などが候補になります。このうち中古車の販売は古物営業法の許可、レンタカーは道路運送法の許可、保険代理店は保険業法の登録というように、整備の認証とは別の許認可が要るものがあります。この記事では、新規事業を選ぶ前に確かめること、分野ごとの始め方と必要な許認可を、法令と運輸局、業界団体の資料で確かめた範囲で一覧にしました。各分野の詳しい手順は、担当する記事と姉妹サイトへのリンクで案内しています。
この記事で確認した一次情報
- 自動車特定整備事業者が事業場以外の場所において特定整備を行う場合の実施規程(国土交通省告示第255号)訪問特定整備・限定訪問特定整備の範囲、届出、従事者の要件
- 道路運送法(e-Gov法令検索)第80条(自家用自動車の有償貸渡し)
- 自家用自動車有償貸渡(レンタカー事業)許可申請等の手引き(北陸信越運輸局新潟運輸支局)申請の流れ、標準処理期間、登録免許税、貸渡実績報告
- 令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要(日本自動車整備振興会連合会)作業内容別の整備売上高、指定工場数
整備工場の新規事業を選ぶ前に確かめる3つのこと
整備工場の新規事業を選ぶ前に確かめたいのは、いまの顧客から頼まれている仕事、追加で要る許認可と人、設備と場所の3つです。最初に見るのは、断ったり外注に出したりしている仕事です。エーミングを外注している、車の買い替えの相談を受けて販売店を紹介している、修理中の代車が足りないといった仕事は、新規事業の候補をそのまま示しています。日本自動車整備振興会連合会の令和7年度自動車特定整備業実態調査では、総整備売上高6兆6,592億円のうち、事故整備が1兆2,253億円で前年度から9.4%、定期点検整備が4,928億円で7.9%、車検整備が2兆7,037億円で6.4%増えました。整備の仕事そのものが増えている中で、周辺の事業を足して1台のお客様から受ける仕事の幅を広げる考え方です。次に、事業ごとに要る許認可と、担当する人を確かめます。最後に、作業場や車両置場、展示場所が今の敷地で足りるかを見ます。この3つに答えが出た分野から始めると、無理が少なくなります。
車検の受託拡大と指定工場(民間車検場)
車検の受託を広げる新規事業の代表は、認証工場から指定工場(指定自動車整備事業)になることです。指定工場になると、自動車検査員が検査して保安基準適合証を交付でき、運輸支局などの検査場へ車を持ち込まずに車検を終えられるため、1日に受けられる車検の台数を増やしやすくなります。指定の要件は、道路運送車両法第94条の2により、認証を受けた事業場であること、優良自動車整備事業者認定規則の設備、技術、管理組織の基準を満たすこと、検査用の機械器具を備えること、自動車検査員を選任することです。関東運輸局の「指定工場の基準」では、工員数は大型車を含まない場合で4人以上、そのうち整備主任者と自動車検査員が各1人以上です。日整連の令和7年度調査では、指定工場数は29,810事業場で3年連続で減っており、地域で車検を受けられる工場は少しずつ減っています。人と設備の条件が大きいので、2人体制の工場がすぐ取れるものではありませんが、整備士を増やす計画と合わせて中期の目標にできます。手順と期間は認証工場から指定工場になるにはで説明しています。
特定整備とEV・ハイブリッド車の整備への対応
特定整備とEV、ハイブリッド車への対応は、新しい車の入庫を断らずに済ませるための新規事業です。衝突被害軽減ブレーキのカメラやレーダーを外したり、取付角度を変えたり、機能を調整したりする作業は、施行規則第3条第8号の電子制御装置整備に当たり、この作業を行うには電子制御装置整備の認証が必要です。整備主任者には、一級整備士(一級二輪を除く)か、二級整備士などで運輸支局長等の講習を修了した人が要ります。フロントガラスやバンパーの交換に伴うエーミングを外注している工場なら、認証を取って社内で行う選択肢があります。取り方は特定整備の認証の取り方にまとめました。EVとハイブリッド車の整備では、対地電圧が50ボルトを超える蓄電池を内蔵する自動車の整備の業務に従業員を就かせる前に、労働安全衛生規則にもとづく特別教育が必要です(2024年10月1日に改正)。必要な教育、保護具、引き受ける範囲は整備工場がEV・ハイブリッド車の整備に対応するにはで説明しています。
出張整備(訪問特定整備)の始め方
出張整備は、認証工場がお客様の駐車場や会社の敷地へ出向いて整備する新規事業で、令和7年6月30日からは一部の特定整備も事業場の外で行えるようになりました。根拠は国土交通省告示第255号「自動車特定整備事業者が事業場以外の場所において特定整備を行う場合の実施規程」(令和7年3月31日)です。制度は2種類あり、訪問特定整備は一定の期間に限り認証基準の設備を置いた場所で特定整備を行うもの、限定訪問特定整備はそれ以外の安全な場所で、事故や故障で摩耗・損傷したブレーキパッドの交換や、オルタネータ・スターターモーターの交換に伴う部品の取り外しなど、告示に挙げられた作業だけを行うものです。始めるには、事業場ごとに開始日の前日までに運輸支局へ電子メールで届け出ます。作業する人は、一級又は二級の整備士で特定整備の実務経験3年以上、所定の教育を受けた人(訪問特定整備士)です。料金の内訳のウェブ掲載、作業前の概算見積りと作業前後の写真の保存(2年間)なども遵守事項に入っています。認証工場であることが前提なので、まず認証を受けた事業場を持っていることが条件です。出張整備で独立するときの作業範囲と保険の備えは出張整備で独立するにはで詳しく説明しています。
認証を受けた作業場や届け出た場所以外で特定整備を行うと、九州運輸局の行政処分等の基準(令和8年4月1日改正)では15点で、事業停止の対象になります。出張で受ける作業が告示の範囲に入るかを、作業ごとに確かめてください。
整備工場の新規事業で別の許認可が要る分野
整備工場の新規事業のうち、中古車の販売、使用済自動車の引取り、レンタカー、損害保険の代理店は、整備の認証とは別の許認可が要ります。どれも申請先が運輸支局ではなく、警察、都道府県、財務局などに分かれるので、始める順番と期間を先に確かめておきます。許認可を取る前に事業を始めると、それぞれの法律の罰則の対象になります。
中古車の販売(古物商許可)
下取りや買取りで仕入れた中古車を売るには、古物営業法第3条により、営業所を管轄する都道府県公安委員会の許可が必要です。整備工場は点検と整備ができる強みがあり、整備した車を販売する事業は始めやすい分野です。許可の取り方から集客までの手順は、姉妹サイトの中古車販売を始める手順で詳しく説明しています。
使用済自動車の引取り(引取業の登録)
廃車にする車をお客様から業として引き取るには、自動車リサイクル法の引取業の登録が要ります。登録先や更新の手続きは、引取業の登録とはで扱っています。
代車とレンタカー(自家用自動車有償貸渡許可)
お金を受け取って車を貸すには、道路運送法第80条第1項により自家用自動車の有償貸渡しの許可が必要です。条文は「業として有償で貸し渡して」はならないと定めているため、修理中のお客様に無償で貸す代車はこの許可の対象外ですが、代車の料金を受け取るなら許可が要ります。新潟運輸支局の手引きでは、許可の標準処理期間は1か月、許可後に登録免許税9万円を納め、車両を「わ」ナンバーで登録し、毎年5月31日までに貸渡実績報告書を出す流れです。有償で貸し渡す自家用自動車の定期点検は6か月ごとになります(道路運送車両法第48条)。
損害保険の代理店(保険業法の登録)
自動車保険を扱う損害保険代理店になるには、保険業法第276条により内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。代理店になるには保険会社との委託契約が前提で、保険会社の審査があります。整備の現場で事故や保険の相談を受ける機会が多い工場には、相談の受け皿になる事業です。
設備を足して始める整備工場の新規事業
設備を足して始める新規事業には、鈑金塗装とタイヤ保管があります。鈑金塗装は、事故整備の売上を外注に出さずに社内に残せる事業ですが、塗装ブースなどの設備と、塗料や有機溶剤の取扱いに関する決まりがあり、整備とは別の準備が要ります。始め方は姉妹サイトの板金塗装で開業するにはで説明しています。タイヤ保管は、履き替えたタイヤを預かって次の時期に連絡する仕組みで、季節ごとの来店の理由になります。保管するタイヤの重さの合計が3,000キログラムに達すると、ゴム製品を含む合成樹脂類として消防法の指定可燃物になり、市町村条例の貯蔵基準がかかるため、置き場を決める前に消防署へ相談します。設備と始め方はタイヤ屋の開業ガイドにまとめています。
整備工場の新規事業と必要な許認可の一覧
整備工場の新規事業ごとに、必要な許認可と申請先、主な条件を一覧にしました。整備の認証の範囲内で広げる事業は運輸支局、それ以外の事業はそれぞれの法律の窓口に申請します。許認可の名前が分かっていれば、窓口に相談するときに話が早く進みます。表は2026年10月24日時点で確かめた法令にもとづくもので、細かな要件と手数料は申請先で確かめてください。
| 新規事業 | 必要な許認可 | 根拠 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| 車検の受託拡大(民間車検場) | 指定自動車整備事業の指定 | 道路運送車両法第94条の2 | 工員4人以上(大型車を含まない場合)、自動車検査員の選任、検査用機械器具 |
| エーミング(電子制御装置整備) | 電子制御装置整備の認証 | 道路運送車両法第78条、施行規則第57条 | 作業場、整備用スキャンツール、講習を修了した整備主任者 |
| EV・ハイブリッド車の整備 | (許認可ではなく)特別教育 | 労働安全衛生規則第36条 | 対地電圧50ボルト超の蓄電池を内蔵する自動車の整備の業務に就く従業員への教育 |
| 出張での特定整備 | 訪問特定整備等の届出 | 国土交通省告示第255号 | 認証工場であること、実務3年以上の一級・二級整備士、教育 |
| 中古車の販売 | 古物商許可 | 古物営業法第3条 | 都道府県公安委員会の許可 |
| レンタカー | 自家用自動車有償貸渡許可 | 道路運送法第80条 | 運輸支局へ申請、登録免許税9万円、「わ」ナンバー |
| 損害保険の代理店 | 損害保険代理店の登録 | 保険業法第276条 | 保険会社との委託契約 |
整備工場の新規事業に関するよくある質問
- 整備工場が最初に始めやすい新規事業は何ですか?
- いま断ったり外注したりしている仕事から選ぶのが始めやすい方法です。エーミングを外注しているなら電子制御装置整備の認証、代車が足りないなら代車の増車、買い替えの相談が多いなら中古車の販売というように、顧客の声が候補を示します。
- 代車を無料で貸すのにレンタカーの許可は要りますか?
- 道路運送法第80条第1項は「業として有償で」貸し渡す場合に許可を求めているため、修理中のお客様に無償で貸す代車は対象外です。代車の料金を受け取る場合は、自家用自動車有償貸渡の許可を取ってください。
- 出張整備でブレーキの作業もできますか?
- 令和7年6月30日施行の告示第255号により、認証工場が届出をすれば、限定訪問特定整備として、事故や故障で摩耗・損傷したブレーキパッドをキャリパを外して交換する作業などを事業場の外で行えます。告示に挙げられていない分解整備は、認証を受けた作業場か、訪問特定整備として届け出た場所で行います。
- 中古車の販売を始めるには何が必要ですか?
- 中古車を仕入れて売るには、古物営業法第3条による都道府県公安委員会の許可が必要です。許可の取り方と販売の始め方は、姉妹サイトkg.j-carnet.co.jpの開業手順の記事で説明しています。
- 新規事業を始めたあと、整備と販売の管理はどうすればよいですか?
- 整備の顧客と販売の顧客を別々に管理すると、同じお客様の情報を2回入力することになります。自動車整備システムと車両販売システム(車販ソフト)の情報がつながるかを確かめておくと、車検の案内と買い替えの提案を同じ顧客情報から出せます。
出典
この記事は次の一次情報をもとに作成しています(2026年10月24日確認)。
- 国土交通省 自動車特定整備事業者が事業場以外の場所において特定整備を行う場合の実施規程(国土交通省告示第255号、令和7年3月31日):https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001879713.pdf
- e-Gov法令検索 道路運送車両法(第48条、第78条、第94条の2):https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
- e-Gov法令検索 道路運送車両法施行規則(第3条、第57条):https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000800074
- e-Gov法令検索 道路運送法(第80条):https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000183
- 北陸信越運輸局新潟運輸支局 自家用自動車有償貸渡(レンタカー事業)許可申請等の手引き:https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/niigata/use/shinsei/rentatebiki2023.pdf
- e-Gov法令検索 古物営業法(第3条):https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000108
- e-Gov法令検索 保険業法(第276条):https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000105
- 関東運輸局 指定工場の基準:https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/content/000163110.pdf
- 九州運輸局 自動車整備事業者に対する行政処分等の基準(令和8年4月1日改正):https://wwwtb.mlit.go.jp/kyushu/content/000372205.pdf
- 日本自動車整備振興会連合会 令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要(令和8年1月30日):https://www.jaspa.or.jp/Portals/0/resources/jaspahp/member/data/pdf/R07jittaityousa.pdf