部品持ち込みを整備工場が受けるときの決めごと|工賃の決め方、保証の範囲、断る基準と受付の書面

ネット通販で部品を買ったお客様から「この部品を付けてもらえますか」と頼まれる場面は、独立したばかりの整備工場でもよくあります。断れば仕事を逃し、何も決めずに受ければ、部品の不具合なのか取り付けの不具合なのかで揉めたときに説明がつきません。この記事では、部品持ち込みを整備工場が受けるときの決めごとを、工賃の決め方、保証の範囲、適合と品質の確認、断る基準、受付時の書面の順に整理します。責任の線引きは、民法の請負の規定(第636条)、製造物責任法、消費者契約法、道路運送車両法の条文で確かめられる範囲で書きました。個別の揉め事の結論は事情で変わるため、契約書の文面は弁護士など専門家に確認してもらうことをおすすめします。
この記事で確認した一次情報
- 民法(e-Gov法令検索)第636条(注文者が提供した材料による不適合)、第637条、第709条
- 製造物責任法(e-Gov法令検索)第2条(製造物、欠陥、製造業者等)、第3条
- 消費者契約法(e-Gov法令検索)第8条(事業者の損害賠償責任を免除する条項の無効)
- 道路運送車両法(e-Gov法令検索)第99条の2(不正改造等の禁止)
- 違法マフラー 徹底排除 強化中(国土交通省)交換用マフラーの表示と基準
部品持ち込みとは(整備工場が受けるときの考え方)
部品持ち込みとは、お客様が自分で用意した部品を整備工場に渡し、取り付けの作業だけを頼む依頼のことです。整備工場から見ると、部品の仕入れと販売がなく、作業だけを請け負う形になります。民法第636条は、請負人が契約の内容に適合しない仕事の目的物を引き渡しても、それが注文者の供した材料の性質によって生じた不適合なら、注文者は追完、報酬の減額、損害賠償、契約の解除を求められないと定めています。持ち込まれた部品そのものの不具合は、原則として工場の責任になりにくいということです。ただし同条のただし書きは、請負人がその材料が不適当であることを知りながら告げなかったときは別だとしています。合わない部品だと気づいたのに黙って付けると、工場が責任を負う側に回ります。部品持ち込みを受けるかどうかは、この線引きを受付の段階で言葉と書面にできるかで決まります。
部品持ち込みの工賃の決め方
部品持ち込みの工賃は、通常の作業と同じく、作業にかかる時間に1時間あたりの工賃(レバーレート)を掛けて決め、そのうえで持ち込みの場合の扱いを料金表に書いておきます。整備工場の売上は、日整連が示す料金項目で見ると、整備技術料などの技術料と、部品・油脂代に分かれます。部品を売る場合は部品の粗利も工場に残りますが、持ち込みでは技術料だけになります。そのため、持ち込みの作業にだけ割増しの工賃を設ける工場もあれば、通常と同じ工賃にして受付の手間を減らす工場もあります。どちらにする場合も、受付で金額を伝えられるように、作業ごとの時間と、持ち込みの扱いを先に決めておきます。部品が合わずに付けられなかったときや、付けたあとに外して戻すときの作業代、適合を調べる時間の扱いも、同じ料金表に入れておくと後で揉めません。
| 決めておく項目 | 決め方の例 |
|---|---|
| 取り付けの工賃 | 作業時間×レバーレート。持ち込みの割増しをするか、するなら率か金額か |
| 適合を調べる時間 | 品番の照合だけなら無料、実車で仮合わせするなら作業時間で請求 |
| 付けられなかったとき | 点検と分解にかかった時間分を請求するか |
| 再作業(部品の不具合で外す) | 部品が原因なら有料、作業が原因なら無料 |
| 消耗品、油脂 | ガスケット、ボルト、オイルなど作業に要る物を工場で用意するか |
レバーレートの決め方は整備工場の工賃の決め方とレバーレート、粗利の考え方は整備工場の利益率と粗利で扱っています。
部品持ち込みの保証の範囲と法律上の責任
部品持ち込みの保証は、部品そのものと、取り付けの作業を分けて決めます。部品の欠陥については、製造物責任法第3条で、製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときに責任を負うのは、その部品を業として製造、加工又は輸入した者や、製造業者として名前を表示した者などの「製造業者等」とされています(第2条第3項)。お客様が個人で海外から直接買った部品では、国内に業として輸入した者がいない場合があり、欠陥があっても責任を問う相手が見つけにくくなります。取り付けの作業については、作業の誤りで車や人に損害が出れば、工場は請負の契約上の責任や、民法第709条の不法行為の責任を問われます。消費者契約法第8条は、個人のお客様との契約で、事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項を無効としています。「持ち込み部品の作業は一切責任を負いません」と書いても、作業のミスの責任までは免れません。
| 不具合の原因 | 責任の考え方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 持ち込まれた部品の性質 | 原則として工場は追完や賠償を求められない。不適当と知りながら告げなかった場合は別 | 民法第636条 |
| 部品の欠陥による人身・財産の被害 | 部品の製造業者等が責任を負う | 製造物責任法第2条、第3条 |
| 取り付け作業の誤り | 工場が請負の責任や不法行為の責任を負う | 民法第709条ほか |
| 工場の責任を全部免除する条項 | 個人のお客様との契約では無効 | 消費者契約法第8条第1項 |
消費者契約法第8条第3項は、軽い過失の場合に責任の一部を免除する条項でも、重大な過失を除く過失にだけ適用されることを明らかにしていないものを無効としています。保証書や受付票に免責の文を入れるときは、どの場合に、どこまでかを具体的に書き、文面を専門家に見てもらってください。
民法第637条により、請負の目的物の不適合を理由に追完などを求めるには、注文者が不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知する必要があります。作業の保証期間を独自に決める場合も、この規定との関係を確かめておきます。
持ち込み部品の適合・品質の確認
持ち込み部品の適合と品質は、受け取った時点で、品番、対象の車種と型式、新品か中古品か、外観の傷や欠品の4つを確かめます。民法第636条のただし書きのとおり、合わないと気づいたのに黙って付けると工場の責任になるため、確かめた結果はお客様に伝え、受付票に残します。車検証の型式や車台番号と、部品メーカーの適合表を照らし合わせるのが基本で、適合表がない部品や、出品者の説明しかない部品は、合うかどうかを工場が保証できない旨を先に伝えます。保安基準に関わる部品は特に注意が要ります。道路運送車両法第99条の2は、何人も、車検証の交付を受けた自動車について、装置の取付けや取外しなどで保安基準に適合しなくなる行為をしてはならないと定めています。工場も「何人も」に含まれます。
たとえば交換用マフラーについて、国土交通省の資料は、平成22年4月以降に製作された自動車に騒音の基準が適用され、基準に適合する例として、自動車メーカーの表示がある純正品、装置型式指定品の表示、登録性能等確認機関による性能等確認済表示、協定規則やEU指令の適合品表示などを挙げています。平成28年10月以降に製作された自動車等は、運行中にこれらの表示や試験成績表等を確認できない場合、基準不適合になるとしています。灯火類やタイヤ、ホイールなど保安基準に関わる部品は、表示や規格を確かめられないものを付けない、と決めておくと判断が早くなります。
部品持ち込みを断る基準
部品持ち込みを断る基準は、受付の担当が迷わないように、工場として先に文章で決めておきます。基準の中心は、保安基準に適合しなくなるおそれがある部品、安全に関わる装置で品質を確かめられない部品、取り付けに必要な情報や工具がない部品の3つです。かじ取り装置のギヤ・ボックスやリンク装置の連結部を取り外す作業のように、施行規則第3条の分解整備に当たる作業は、特定整備記録簿に記載する作業になります。そうした作業で、出どころの分からない中古部品を付けてよいかは、整備主任者が判断できる基準を持っておきます。断るときは、理由を短く伝え、純正品や適合表のある部品なら受けられる、と代わりの方法を示すと、お客様との関係を保ちやすくなります。
- 保安基準に適合しなくなるおそれがある(表示や規格が確かめられないマフラー、灯火類など)。
- ブレーキ、ステアリング、足回りなど安全に関わる部品で、品番や品質を確かめられない。
- 部品の箱や説明書がなく、新品か中古品か分からない。
- 取り付けに要る整備情報、専用工具、スキャンツールがない。
- リコールの対象になっていないかを確かめられない。
- お客様が、不具合が出たときの扱いの説明に同意しない。
部品持ち込みの受付時に交わす書面
部品持ち込みの受付では、作業の内容と、部品と作業の責任の分け方を1枚の受付票にまとめ、お客様の署名をもらって控えを渡します。書面に残す目的は、後で不具合が出たときに、受け取った部品がどんな状態で、工場が何を説明したかを示せるようにすることです。部品の写真を撮って作業記録に付けておくと、品番や外観の確認の証拠になります。分解整備に当たる作業では、道路運送車両法第91条と施行規則第62条の2により特定整備記録簿の記載と写しの交付が要るので、受付票とは別に記録簿も作ります。受付票の文面は、消費者契約法第8条で無効になる書き方を避け、作業の誤りによる損害は工場が負うこと、部品そのものの不具合は部品の販売元や製造元に相談してもらうことを分けて書きます。
- お客様の氏名、連絡先、車の登録番号と車台番号。
- 部品の名称、品番、購入先、新品か中古品か、受け取ったときの状態と写真。
- 作業の内容、工賃、適合しなかったときの扱いと費用。
- 工場が確かめた事項と、お客様に伝えた注意(適合の可否、保安基準との関係)。
- 作業の保証の範囲と期間、部品そのものの不具合の相談先。
- 取り外した部品を返すか、処分するか。
- お客様の署名と日付。
記録簿の記載事項は分解整備の定義と特定整備記録簿で確認できます。
部品持ち込みと整備工場の保険
部品持ち込みの作業で起きる事故に備えるには、保険がどの場面を補償するかを確かめておきます。日本損害保険協会の解説では、生産物賠償責任保険(PL保険)は、製造、販売した製品の欠陥または行った工事・サービスの結果を原因とした損害賠償責任を補償するものとされています。整備工場では、納車後に作業の不具合が原因で事故が起き、第三者に損害を与えた場面が当てはまります。お客様の車を預かっている間の損害は受託者賠償責任保険の受け持ちです。持ち込み部品の欠陥が原因の事故が補償の対象になるかは商品によって違うため、加入している保険の約款で確かめ、代理店に持ち込み作業を受けていることを伝えておきます。
保険の種類は受託者賠償責任保険と整備工場の保険、出張先での作業の決めごとは出張整備で独立するにはで扱っています。
まとめ
部品持ち込みは、民法第636条により持ち込まれた部品の性質による不適合は原則として工場の責任になりにくい一方、不適当と知りながら告げなかった場合や、取り付けの作業を誤った場合は工場の責任になります。部品の欠陥による被害は、製造物責任法で部品の製造業者等が責任を負います。個人のお客様との契約で工場の責任を全部免除する条項は、消費者契約法第8条で無効です。受ける前に、工賃と持ち込みの扱い、適合の確認の手順、断る基準、受付票の文面を決めておきます。保安基準に関わる部品は、表示や規格を確かめられないものを付けない、と決めておくと迷いません。
部品持ち込みに関するよくある質問
- 持ち込みの部品が壊れたら、整備工場は責任を負いますか?
- 民法第636条により、注文者が提供した材料の性質による不適合は、原則として請負人に追完や賠償を求められません。ただし、工場が不適当だと知りながら告げなかった場合や、取り付けの作業に誤りがあった場合は、工場の責任になります。
- 「持ち込み部品は一切保証しません」と書けば責任を負わずに済みますか?
- 個人のお客様との契約では、消費者契約法第8条第1項により、事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項は無効です。部品そのものの不具合と作業の誤りを分け、作業については工場が責任を持つ形で書いてください。
- 部品持ち込みの工賃は高くしてもよいですか?
- 料金表で事前に示しておけば、持ち込みの作業にだけ割増しの工賃を設けるかどうかは工場の判断で決められます。部品の粗利がない分をどう考えるか、適合を調べる時間や付けられなかったときの作業代をどう扱うかも、同じ料金表に書いておきます。
- 車検に通らない部品を頼まれたらどうすればよいですか?
- 道路運送車両法第99条の2は、何人も、装置の取付けなどで自動車が保安基準に適合しなくなる行為をしてはならないと定めています。保安基準に適合しなくなるおそれがある部品は断り、表示や規格を確かめられる部品なら受けられると伝えてください。
- 持ち込みの作業の記録はどう残せばよいですか?
- 部品の品番や写真、説明した内容を、車ごとの整備履歴に残しておくと、後で不具合が出たときに確かめられます。自動車整備システム(自動車整備ソフト)なら、見積、作業の記録、請求、記録簿を同じ車の履歴にまとめられます。整備ソフト 安いかどうかだけでなく、写真やメモを残せるかも比べてください。
出典
この記事は次の一次情報をもとに作成しています(2026年10月24日確認)。
- 民法(e-Gov法令検索)第636条、第637条、第709条:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 製造物責任法(e-Gov法令検索)第2条、第3条:https://laws.e-gov.go.jp/law/406AC0000000085
- 消費者契約法(e-Gov法令検索)第8条:https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
- 道路運送車両法(e-Gov法令検索)第91条、第99条の2:https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
- 道路運送車両法施行規則(e-Gov法令検索)第3条、第62条の2:https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000800074
- 国土交通省 違法マフラー 徹底排除 強化中:https://www.mlit.go.jp/common/001406794.pdf
- 日本自動車整備振興会連合会 点検整備料金のご説明:https://www.jaspa.or.jp/member/explanation/fee01_02.html
- 日本損害保険協会 賠償責任のリスク:https://www.sonpo.or.jp/sme_insurance/liability/