出張整備で独立するには|できる作業・できない作業と訪問特定整備制度、保険の備え

出張整備とは、お客様の自宅や会社の駐車場まで出向いて、その場で車の点検や整備をする仕事です。タイヤ交換、オイル交換、バッテリー交換のような作業は、認証を受けた工場がなくても事業として行えます。一方で、ブレーキのキャリパを外す作業のような分解整備は、道路運送車両法で認証を受けた事業者でなければ事業として行えず、認証事業者が出張して行う場合も、2025年3月31日に始まった訪問特定整備制度の決まりに従う必要があります。この記事では、道路運送車両法と施行規則、国土交通省と日本自動車整備振興会連合会(日整連)の資料を確かめながら、出張整備でできる作業とできない作業、出張整備で独立する人の始め方、保険と作業場所の注意点を整理します。
この記事で確認した一次情報
- 道路運送車両法(e-Gov法令検索)第78条(認証)、第109条(罰則)
- 道路運送車両法施行規則(e-Gov法令検索)第3条(特定整備の定義)、第62条の2の2第1項第9号
- 訪問特定整備制度について(国土交通省)制度の概要、届出の窓口と様式
- 訪問特定整備マニュアル(日本自動車整備振興会連合会、令和7年4月)訪問特定整備と限定訪問特定整備の作業範囲、作業場所の要件
出張整備とは
出張整備とは、整備士が工具や部品を積んでお客様のところへ出向き、駐車場などで車の点検や部品の交換を行うサービスです。法令上の決まった名前ではなく、作業の中身によって守るべき決まりが変わります。境目になるのは、その作業が道路運送車両法施行規則第3条で定める「特定整備」にあたるかどうかです。特定整備は、原動機、動力伝達装置、走行装置、かじ取り装置、制動装置、緩衝装置、連結装置の決められた部品を取り外す分解整備と、自動ブレーキなどのカメラやレーダーの取り外しや調整を伴う電子制御装置整備を指します。道路運送車両法第78条は、自動車特定整備事業を経営しようとする者は、特定整備を行う事業場ごとに地方運輸局長の認証を受けなければならないと定めており、認証を受けずに経営すると同法第109条で50万円以下の罰金の対象です。特定整備にあたらない作業なら認証は要りません。国土交通省は、特定整備は原則として認証工場の事業場内で行う必要があるとしたうえで、認証工場が事業場の外で特定整備を行えるよう、2025年3月31日の省令改正などで訪問特定整備制度を設けました。
出張整備でできる作業とできない作業
出張整備でできる作業とできない作業は、認証を持っているかどうかで2段階に分かれます。認証がなくても事業としてできるのは、特定整備にあたらない作業です。タイヤ交換(ホイールの脱着)、エンジンオイルとオイルフィルターの交換、バッテリーの交換、ワイパーゴムや電球の交換、日常点検の項目の確認などがこれにあたります。施行規則第3条の走行装置の項目はフロント・アクスルや前輪独立懸架装置などを取り外す整備で、ホイールを外すだけのタイヤ交換は含まれません。認証がない事業者が事業としてできないのは、ブレーキのディスク・キャリパを取り外して行うパッド交換、ドライブ・シャフトやタイロッドエンドの連結部を外す作業などの分解整備と、電子制御装置整備です。認証を受けた事業者でも、事業場の外で特定整備を行うには、訪問特定整備制度の届出と要件を満たす必要があります。
| 作業の例 | 特定整備か | 認証のない事業者 | 認証事業者の出張 |
|---|---|---|---|
| タイヤ交換、オイル交換、バッテリー交換 | 該当しない | できる | できる |
| ワイパーゴム、電球、エアフィルターの交換 | 該当しない | できる | できる |
| ブレーキ・キャリパを外すパッド交換 | 分解整備 | できない | 届出のうえ限定訪問特定整備の範囲でできる(事故・故障等で摩耗・損傷したものに限る) |
| オルタネータ、スターターモーター交換に伴う連結部の取り外し | 分解整備 | できない | 届出のうえ限定訪問特定整備の範囲でできる |
| 原動機やトランスミッションの取り外し | 分解整備 | できない | 設備のある場所での訪問特定整備に限られる |
| カメラ・レーダーのエーミング | 電子制御装置整備 | できない | 要件を満たす場所での訪問特定整備に限られる |
どの作業が分解整備にあたるかは、分解整備の定義とはで装置ごとに整理しています。迷う作業は、引き受ける前に管轄の運輸支局か整備振興会で確かめてください。
訪問特定整備制度と限定訪問特定整備
訪問特定整備制度とは、自動車特定整備事業の認証を受けた事業者が、認証を受けた事業場以外の場所で特定整備を行うための制度で、2025年3月31日に道路運送車両法施行規則の改正、告示(実施規程)、通達の改正によって設けられました。日整連の訪問特定整備マニュアルによると、制度は2種類に分かれます。「訪問特定整備」は、運送事業者の整備場のように認証工場と同等以上の設備がある場所で行うもので、作業開始日を含む連続した3日(離島は5日)を超えない期間内に、認証を受けた範囲の特定整備を行えます。「限定訪問特定整備」は、お客様の自宅の駐車場のように設備のない場所で行うもので、小型の工具で1〜2時間程度で終えられる作業に限られ、ブレーキパッドの交換や、オルタネータ・スターターモーターの交換に伴う決められた連結部の取り外しなどが対象です。限定訪問特定整備では、特定整備を含む法定定期点検整備は行えません。どちらも、作業場所は事業場から自動車でおおむね1時間の範囲か同じ都道府県内で、事前に運輸支局等への届出が必要です。作業する人は事業場の従業員で、1級または2級の整備士が一定の要件を満たして「訪問特定整備士」として届け出るなどの決まりがあります。
| 限定訪問特定整備の作業場所の要件(日整連マニュアルより) |
|---|
| 対象の車の最も外側から50cm以上のスペースがあること |
| 屋内で作業する場合、天井の高さが車の高さに30cmを加えた高さ以上であること |
| 作業する場所の床面が平らに舗装されていること |
| 道路や、共有の私道・駐車場(決められた条件を満たす場合を除く)でないこと |
| 道路、公園、河川などの公共施設でないこと |
| 強風、大雨、雷などで作業に危険が生じるおそれがないこと |
違反した場合の行政処分の点数も定められており、日整連のマニュアルでは、作業場所の要件を満たさない場所での実施や、届け出た期間を超えた実施などが違反点数の例として挙げられています。制度を使う前に、国土交通省のページにある実施規程とQ&Aを必ず読んでください。
出張整備で独立する人の始め方
出張整備で独立する始め方は、認証を受けずに特定整備にあたらない作業だけで始めるか、認証工場を持ったうえで出張も行うかの2通りです。認証なしで始める場合は、タイヤ交換、オイル交換、バッテリー交換、点検の代行などに作業を絞り、分解整備が必要な車は提携する認証工場へ紹介する流れを作ります。工場を持たないので初期費用は抑えられますが、受けられる仕事の範囲は狭くなります。認証工場を持つ場合は、工場で分解整備を行い、必要に応じて訪問特定整備制度で出張もする形になります。訪問特定整備では事業場の整備主任者が統括管理をする仕組みのため、認証工場の基準と人の要件をまず満たす必要があります。どちらの形でも、作業ごとの料金表、作業前後の写真の記録、お客様への作業内容の説明と同意の取り方を決めてから始めると、トラブルを防げます。認証工場の作業場や工具の基準は認証工場の条件一覧、独立の全体の流れは整備士が独立・開業する方法にまとめています。
開業後の仕事の集め方は整備工場の集客方法、作業ごとの工賃の決め方は整備工場の工賃の決め方とレバーレートが参考になります。
出張整備の保険と作業場所の注意点
出張整備では、お客様の敷地で作業するため、工場での作業とは違う事故に備える必要があります。作業中にお客様の車を傷つけた場合、ジャッキが外れて車が落ちた場合、作業後に部品の取り付けが原因で不具合が起きた場合、お客様の家の壁や塀、隣の車を傷つけた場合など、誰の何に対する損害かで使う保険が変わります。預かった物の損害に備える受託者賠償、作業の結果に起因する事故に備える生産物賠償(PL保険)、作業中に第三者に与えた損害に備える賠償責任保険を、出張先での作業も対象に入るかどうか確かめて選びます。作業場所では、道路上で作業すると道路交通法第77条の道路使用許可が関わるため、お客様の敷地内など道路以外の場所で作業します。交換した廃油や古いバッテリーは、事業活動に伴って出た廃棄物として事業者が自らの責任で処理する必要があり(廃棄物の処理及び清掃に関する法律第3条)、持ち帰ったあとの処理の流れを決めておきます。保険の考え方は受託者賠償責任保険と整備工場の保険で詳しく説明しています。
- 受ける作業が特定整備にあたらないかを、作業ごとに確かめている。
- 分解整備が必要な車を紹介する認証工場がある。
- 作業前と作業後に車の状態を写真で記録している。
- 出張先での作業が保険の対象に入るかを確かめている。
- 道路以外の場所で作業できるかを、予約の段階で確かめている。
- 廃油や古いバッテリーの処理先を決めている。
出張整備に関するよくある質問
- 出張整備を始めるのに資格や許可は要りますか?
- タイヤ交換、オイル交換、バッテリー交換のように特定整備にあたらない作業だけなら、国の認証は要りません。分解整備や電子制御装置整備を事業として行うには、道路運送車両法第78条の認証が必要で、出張で行う場合は訪問特定整備制度の届出と要件も満たす必要があります。
- 出張先でブレーキパッドを交換してもよいですか?
- ディスク・キャリパを取り外して行うパッド交換は分解整備です。認証を受けた事業者が、限定訪問特定整備の届出をしたうえで、事故や故障などで摩耗・損傷したパッドを交換する場合に限って、お客様の駐車場などで行えます。認証のない事業者は事業として行えません。
- 出張で車検の整備まで行えますか?
- 日整連のマニュアルでは、限定訪問特定整備では特定整備を含む法定定期点検整備は行えないとされています。設備のある場所で行う訪問特定整備は別の扱いで、指定工場が指定整備として行う点検・整備は訪問特定整備の対象外です。
- 訪問特定整備制度はいつから始まりましたか?
- 2025年3月31日に道路運送車両法施行規則の改正、実施規程の告示、通達の改正が行われ、制度が設けられました。届出の窓口と様式は、国土交通省の「訪問特定整備制度について」のページに掲載されています。
- 出張整備の予約や作業の記録は、どう管理すればよいですか?
- お客様の住所、車両、作業内容、作業前後の写真、請求を1件ずつまとめて残しておくと、次回の案内や問い合わせへの対応がしやすくなります。工場を持ってからも使える自動車整備システム(自動車整備ソフト)を選ぶときは、整備ソフト 安いかどうかだけでなく、整備システム リースなしで小さく始められるかも判断の材料になります。
出典
この記事は次の一次情報をもとに作成しています(2026年10月24日確認)。
- 道路運送車両法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
- 道路運送車両法施行規則(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000800074
- 国土交通省 訪問特定整備制度について:https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr9_000033.html
- 日本自動車整備振興会連合会 訪問特定整備マニュアル(令和7年4月、東北運輸局掲載):https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/am/puresu/se250929-1.pdf
- 国土交通省 自動車整備事業の取扱い及び指導要領:https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001899927.pdf
- 道路交通法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137